以前、こんなことがありました。

「・・・では、色々検査してみましょう。血液検査と、頭のCTと、それから脳波」
「CTはいいけど、脳波は嫌です」
「なぜですか?」
「・・・・何でって・・・・とにかく嫌です」
検査の必要性を懇々と説明しましたが、頑として聞く耳を持ちません。

仕方がないのでこちらが折れ、看護師が待合で検査の案内をしていると、しばらくして看護師が来ました。
「先生、あの患者さん、脳波をとられると考えてることが分っちゃうから嫌なんだそうです」
もちろん、再度説明して誤解を解いたうえで、脳波検査を受けて頂きました。


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私は神経内科という科の特性上、脳波検査を良く行います。
一般の神経内科&精神科診療でもそうですし、睡眠センターでは終夜ポリグラフと言って、脳波や心電図、筋電図その他色々な生体の電気活動を、一晩中記録します。

脳波について、患者さんや他の科の医師からよく聞かれるのは、「脳波で何が分るの?」という事です。
脳波は脳の電気活動を記録しますが、何を考えているかがわかる訳では、決してありません。
夢の内容も分りません。
では、何が分るのか。

1つには脳が異常な電気活動を起こしていないか、という事。これがあると、全身にけいれんを起こすことがあります。
2つ目に、意識状態を見ることが出来ます。起きているのか、寝ているのか。睡眠の深さや、昏睡の種類や程度なども分ります。狸寝入りも分ります。終夜ポリグラフも、この部類に入ります。脳死判定も、この延長線上です。
3つ目は、特殊な異常所見がないか。疾患によっては、特徴的な脳波が見られることがありますので、そう言った病気の鑑別に使われます。

いずれにしても、あくまでも「電気的な側面から見た、脳の活動状態」を見る訳であって、思考や感情とは全く別物です。
言うなれば、映写機の作動状態を見ているようなものです。映し出されるフィルム内容とは、全く別の物です。

電極はたくさんつけますが、もともと脳が発している電気活動を拾うだけなので、フランケンシュタインのように通電する訳ではありません(精神科の世界には通電する治療法もありますが)。
しかも、極めて微細な電気活動なので、ほんのちょっとのことで大きなノイズが入り、読めなくなります。脳の電気活動は、単位がマイクロボルト(=100万分の1ボルト)のオーダー。筋電図はミリボルト(=1000分の1ボルト)のオーダーなので、ざっと1000倍の開きがあります。このため、指を動かしたり、瞬きしたりするだけでかなりの筋電図が入ります。心電図も雑音として容易に混入します。
従って、現在の技術レベルからして、頭部以外から脳波を検出することは困難です。時々、雑誌の広告でα波を検出して云々・・・と謳ってる妖しげなグッズがありますが・・・私は信用しません。


レントゲンが出来た頃、「レントゲンで頭を撮影すると、考えていることまで透視されてしまう」といった誤解もあったらしいです。
出来ないことを「出来る」と誤解されると、その誤解を解くのって大変なんですよね。
「本当は出来る(してる)のに、『出来ない(してない)』って嘘ついてんでしょ?」
いや、そんなこと言われても・・・。

本当は出来るのに、出来ないと疑われているなら話は簡単です。やって見せればいいんですから。しかし、「出来ないことを証明してよ」と言われても、「出来ないものは出来ないんです」としか言いようがありません。
なぜ出来ないかを順序立てて説明するしかないのですが、検査技術の事になるとどうしても理屈っぽくなるんですよね。
「小難しいことはいいから」などと言われてしまうと、どうしようもありません。

頭から信じ込んだ人の誤解を解くのは難しいです。
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